小説5

 眠れない夜が続いた。どうしても眠れなくて、真夜中に飛び起きてノートパソコンの電源をオンにした。古いバラエティ番組を観る。有名人がやっているネットの番組を観る。少しだけ面白い。あくびが出たので寝られると思った。そしてまた布団に戻る。毛布にくるまる。だけど寝られない。アイドルの音楽を聴いた。少しだけ癒された。だが、心は静まらない。僕はスマートフォンで文章を書くことにした。それでも眠気は満たされなかった。
 僕は子供だ。父さんのようにビールを煽ることはできない。みんな寝静まった真夜中に、僕は部屋を出た。そうろと、一階に降りた。金色の豆電球が浮かぶ居間。冷蔵庫はその奥にある。冷蔵庫を開いた。ビールはあった。だけど、缶を奪う度胸はなかった。
 真夜中のテレビから流れるおとなしめの声が心地良い。元々、僕はテレビがあんまり好きじゃない。ドラマもバラエティーもつまらなく感じるんだ。特にバラエティタレントの愛想笑いの嘘臭さには吐き気がするよ。たまらないな。
だけど、深夜は別格だな。なぜだかわからないけど。なんか違うんだよ。空気、というかね。雰囲気に嘘臭さが少ないんだ。
「りょう、起きてたのか」
「お父さん、僕、眠れないんだ」
「そうか、そりゃ困ったな」
「うん。どうにかならないかな」
「布団に入ってればいつか眠れるだろう」
父さんは、大きなあくびをしながら僕にそう言った。
「昼間は何してるんだ?」
「寝てばっかりだよ」
「そうか。それが原因かもな」
父は僕に背中を向けた後、片手を挙げて居間をあとにした。
 朝が来た。朝が来ても憂鬱だ。瞼が重い。結局、昨日の晩はトータルで二時間程の睡眠だ。僕の方は慣れっこなんだが、それでも辛い気もする。どっちなんだろう。どうも最近は訳がわからないよ。混乱してるんだ。自分の感覚というものを見失ってる気がするよ。
 僕の意思とは関係なしに、朝は何度もやってきた。ひとりぼっちの朝。朝はみんな孤独だ。

母親に会う。挨拶をしよう。
「おはよう」
その一言が出てこない。無視をしたい訳じゃないけれど、結果的に無視してしまう。お母さんは不機嫌そうにドアを開けた。洗濯機のスイッチの音が鳴った。不機嫌なのは、僕のせいだ、きっと。
 父親は早くから仕事へ向かう支度をしている。僕は何もしていない。僕は居間に居心地の悪さを感じ部屋の中へ向かった。部屋の中で漫画を読む。そんなことすら煩わしくて、僕は布団の中へ潜り込んだ。