小説4

 夕方になり、喉が渇いたのでジュースを買いに外に出かけようと思った。外と言っても自販機は家からすぐのところにある。だけど足が動かないのだ。自分を嘆いた。もっと暗くなってからにしよう。そしたら出られるかもしれない。どうしてこんなに悩まなくてはいけないのだろう。たかがジュース一本買うだけで、苦しい。僕はダメだな。
 12月も学校には一度も行かなかった。冬休みの通知が僕に届いた。僕はプリントをじっと眺めた。そこには先生のメッセージが添えられていた。
「どう過ごしていますか。また会いに行きます」
 先生の言葉は暖かかった。小林先生はいい先生だ。それだけに僕の裏切り行為に与えられる罪悪感は大きい。悔しい。僕は学校に通い、普通の中学生として、みんなと同じように勉学や部活動に励みたかった。
 部活動。僕は以前バスケットボール部に所属していた。練習のキツさに堪えられなくて辞めたんだ。今は後悔している。部活動さえ続けていれば惨めな思いをすることはなかった。本当にそうか?そうじゃない。僕は学校も部活動も、みんなが普通にやってこなせることができないんだ。僕はおかしい。そう思うと、イライラした。持って行き場のない怒りは急速に肥大化し、僕の内にある拘束具を破壊した。
 気付いたら、部屋の中はむちゃくちゃだった。木でできた扉には大きな穴がひとつ。僕は顔を真っ赤にしながら、母親に向かって、なにやら言葉にならない声を泣きわめいている。とうとう、僕は狂ってしまったのだ。その日の夕日はとても綺麗でカーテンの隙間を通る光はみずみずしい赤だった。
 お母さんは僕を黙って抱き締めた。僕は小さな子供に戻ったような懐かしい気持ちを覚えた。ふと、僕は我に返った。
「ごめんなさい」
母に謝罪した。手に持ったカッターナイフを机の引き出しにそっとしまった。
「ごめんね」
僕は何度も母に謝った。声を出すと喉に変な感覚がある。見なくても涙で自分の瞼が腫れているのがわかる。
母の差し出したハンカチで涙で濡れた顔をきつく拭った。
 晩御飯は唐揚げだった。唐揚げは好きだ。たまたまだが、そんなことで嬉しくなる自分がおかしくて僕は笑った。
「唐揚げがそんなに嬉しいか?」
父は笑って僕に聞いた。
「うん」
父はビールをぐぐっと飲んだ。
「今日は忙しくてな。大変だったんだ」
父が仕事の話をするのは珍しい。だから僕はじっと父の話を聞いた。