小説3

 階段を降りる途中で女の子の声が聞こえた。聞き覚えのある声だ。一階に着いて驚いた。幼稚園の頃からの幼なじみの優ちゃんがいるのが見えた。俺は昨日の晩、風呂も入ってなくて汚ならしい格好だった。幼なじみとはいえ、同級生に、ましてや女子にこの姿を見られるのはとても恥ずかしい。
「りょう君、ひさしぶり」
「あ、久しぶり」
「一緒にごはん食べよう」
「うん」
ファストフードのポテトの匂いが部屋に充満にしていることに気づいた。久しぶりのハンバーガーだ。ハンバーガーは好きだったな。それと大好きだったコーラもある。
「りょう君、最近面白いことあった?」
「あー、えーと」
言葉に詰まる。こんな簡単な質問にすら答えられないなんて。僕はダメだな。
「聞いて!学校でさー」
優ちゃんは僕が不登校である事実を無いことのように喋り続けた。勿論、無神経という訳ではない。母親同士のテレビのニュースやアイドル歌手や俳優の話題にも優ちゃんは入っていった。
僕はほとんど黙っていたが時折突っ込んだりした。それで笑いもとった。みんなでする食事は楽しかった。
 優ちゃんのやってる携帯ゲームを教えてもらった。隣で画面を見ているだけだったが、楽しい。優ちゃんは男子のような距離感だ。そこは昔と変わらない。だけど雰囲気が少し大人びて女性らしくなっている。時おり、目が合うと照れてしまった。
「じゃあ、またね」
「うん」
「学校で待ってるから」
「……」
「なんで、黙るの!」
優ちゃんは目を細めて大袈裟に笑った。
「うん、明日、行く」
「明日日曜日!」
「そっか」
僕は頭をかいた。母親たちも笑った。
今日は、懐かしい感覚が思い起こされた1日だった。
「優ちゃん来てくれて良かったね」
「うん」
「また来るって言ってた」
「うん、優ちゃんは本当にいい子ね」
「そうだね」
「りょう、頭ボサボサ。お風呂入ってないでしょ」
「うん、まあ」
「入ってきなさい!」
「はい」
僕は風呂に浸かりながら、学校に行くことを空想した。久しぶりに行けばみんな本当に喜んでくれるだろうか。それとも、邪険な眼差しを向けられるだろうか。僕は怖い。学校は嫌いじゃない。勉強も運動もそれ自体は嫌いじゃない。だけど、教室が怖い。誰かの視線が怖い。こんな気持ちになるなんて、考えても見なかった。少し学校から離れるくらいなんとも無いと思ってた。それは大きな間違いだった。