小説1

 僕は中学二年の男子だ。勉強はできないし、運動もできないし、ルックスも悪い。当然、女子にモテる訳がなく、それどころか避けられてばかりだ。女子は辛らつだ。厳しい視線に耐えられそうもない。

 このところ僕は学校をずっと欠席している。自意識過剰と言われるかもしれないが、他人の目が気になってしょうがないんだ。助けてくれ。どうしてこうなっちゃったんだろう。以前はこんなふうな気持ちになることは無かったんだ。ただ毎日が楽しく過ぎていった。それなのにいつの間にか外に一歩出ることすら怖くてしょうがないんだ。僕は不登校、ひきこもり、駄目人間だ。

 先生の勧めでカウンセリングを受ける羽目になった。父の運転する車に乗って都市部まで出た。車窓から見る立ち並ぶビルとか歩く人足の多さに緊張が走る。車のドアを開けたら、父が僕らに手を振る。「正直に話してこい」と父は言った。外の空気に触れると、僕はすぐに家に帰りたくなったよ。

 駅の中を母と歩いた。母は僕の手を引いた。恥ずかしいから「やめて」と言う。駅の中にあるエレベーターに乗ってビルの中へ入る。建物の中はすごく綺麗だ。その中を歩き進んだ。ようやくたどり着いたカウンセリングルームの待合室には誰もいなかったから安心した。待合室は狭い小部屋で長いソファーが3つあって、僕が座る向かいには本棚があった。子供向けの本が多いな。窓から覗ける景色にはやはりビルが立ち並んでいた。

 待ち時間は退屈だな。早めに来たから、その分退屈だ。頭を上げて目の先にある時計をじっと眺めた。待っている間、母とは一言も話さなかった。なにしろ話せる雰囲気じゃなかったからね。図書館の中みたいなんだ。
 カウンセラーは男性で、知的で優しそうな人だった。かっこよくて、俳優かモデルのようだ。はあ。僕は心の中でそっとため息をついた。こんな完璧そうな人に僕のようなダメ人間の気持ちがわかるだろうか。僕は初め不安だった。

 広々とした個室の中で僕は悩みをすべてぶちまけた。

他人の目が気になってしまうこと。
いじられキャラで本当は辛い思いをしてること。将来に希望が持てないということ。異性との関わりで悩んでいるということ、だけは言えなかった。

 家族以外の人と話すのは久しぶりだからすごく緊張した。最初は嫌だったけど、何故だかまた来たいと思った。「来てよかった」と去り際にカウンセラーの大橋さんに伝えた。大橋さんはにっこりと笑ってくれた。車の中で母に「来る前よりいい顔してる」と言われると、確かにそんな気がする。父も頷いた。